新所沢の駅を降り数分歩いただろうか。
居酒屋の立ち並ぶ路地の突き当たりにその店を見つけた。
レモンかな?
店内のソファー席から通りをぼんやり眺めていたら、
室内の植木鉢に成っている柑橘類の実に目がとまった。
カウンターの中、レコードを取り出す店主の荒木さんは、いくつかのバンドのバンマスでもある。
アナログの音は気持ち良く、
流れる水面のようにゆらゆらと盤面が揺れていた。
机の上に置かれた一枚。
まとっている空気や、この盤がたどって来たであろう履歴、
ジャケットの面積や紙の質感、重量、匂いなど。
いつのまにかアナログレコードの魔力について考え始めていた。
音が空間を満たしていく。
ほどなくして、まちのギター屋さんで直したばかりのギターを抱えたお客さんがやって来た。
ケースから取り出し弾き始めると、懐かしい音色が店内に響く。
「高校生の時にお父さんに買ってもらったんだけど、モーリス、いい音でびっくりしたよ。」
ここはアナログレコードの気持ちいい音が聴けるお店である、のと同時に、ごく自然に、音楽が演奏される空間にも早変わりしてゆく。
アナログレコードって再生装置でもあるけど、すこし生音に近いのかもしれない、とギターの音を聴きながら思った。
9月にオープンしたばかりなのに、どこか懐かしい佇まい。
狭山や、この辺りの音楽。語り継がれて来た時間が宿っているのかもしれない。
荒木さんが以前通っていたお店に飾られていたという、ルドンの版画。
しばらく物置に眠っていたものが、縁あってこの空間に。
酩酊の彼方にふと目が合うような、謎かけめいた眼差しだ。
とっぷりと陽も暮れて来て、好い時間になってきた。
窓から見える通りも気持ち良さそうに。
うすあかりの中、隣の建物のタイルが目に入って来た。
呼応するように、こちらのお店の中にもタイルの壁がある。
ある建築様式で造られた何処かの国のまちなみみたいでもあるし、タイルとタイルが夜な夜な会話していたっていいじゃないか。ふとそんなことを思う。
「あ、ナッツくださ〜い。」
一緒に来た御仁が軽快な声で注文している。
ビンの内側についた泡の模様を見ていたら、
「いい模様、出てるね〜」と、カウンター席の方から声がした。
グラスが綺麗に磨かれていることで、このきれいな泡の模様が出るのだそう。
カウンターには、所沢発のクラフトビール「野老ゴールデン」を手がける吉村英二さんが座っていた。
「畑とかね、いろいろまわったりして。今日も忙しかったんだよねぇ。」荒木さんと話している。
所沢にはむかし野老(ところ)と言って山芋科の植物がたくさん生えていた…それが「野老澤(ところざわ)」=「所沢」と、この地の名前の由来になったという。
ほどよくビールがまわってきたけれど、
まだまだ宴は続くのだった。
外から見たら、あかりが灯ったようにぼわっと明るいお店。
ウッドストック
〒359-1111 所沢市緑町2-1-5 古嶋ビル 1F
17時~24時 月曜定休